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福島地方裁判所 昭和42年(ヨ)42号 判決 1968年3月12日

債権者 江口肇 外二名

債務者 国

訴訟代理人 藤堂裕 外一一名

主文

本件申請はいずれもこれを却下する。

訴訟費用は債権者らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、債権者ら

債務者が昭和四二年四月一目付をもつてした

(1)  債権者江口肇に対する前橋営林局事業部土木課根利林道事業所に配置換する旨の意思表示

(2)  債権者塚原宏夫に対する浪江営林署事業課椚平製品事業所に配置する旨の意思表示

(3)  債権者近藤恒男に対する沼田営林署経営課に配置換する旨の意思表示

は、本案判決確定に至るまでいずれもその効力を停止する。

二、債務者

主文同旨

第二、申請の理由

一、(当事者)

債権者らはいずれも農林省林野庁農林技官として、債権者江口は林野庁前橋営林局福島営林署に、債権者塚原・近藤は同営林局白河営林署に勤務していた。

二、(被保全権利)

(一)  債務者(林野庁前橋営林局長森博)は、昭和四二年四月一日付をもつて、債権者江口を前橋営林局事業部土木課根利林道事業所に、債権者塚原を浪江営林署事業課椚平製品事業所に、債権者近藤を沼田営林署経営課に、それぞれ配置換する旨発令し同月四日債権者らに対しその旨の辞令を交付した。

(二)  しかしながら、本件配置換の意思表示は、債務者の不当労働行為であり、人事に関する権利の濫用として無効である。

すなわち債務者は債権者らが組合活動に積極的に従事している者であることの故をもつて、債権者らに対して本件配置換を命じ、債権者らに対して不利益な取扱をし(労働組合法第七条第一号違反)、本件配置換によつて債権者らがその中核となつている組合の青年婦人部、後記学習協議会、同音楽協議会の組織を破壊し、労働者が組合を運営することを支配し、これに介入(同法第七条第三号違反)したものである。

詳言するに、債権者らはいずれも全林野労働組合(以下組合という。)の組合員で

(1)  債権者江口は昭和三八年組合前橋地方本部福島営林署分会青年婦人部事務局長、昭和三九年同分会執行委員、昭和四〇年同分会執行委員教宣部長、全林野福島県連絡会議常任委員、青年婦人部長、昭和四一年同分会青年婦人部長に任じ現在に至り、他方昭和三八年一一月以来労働団体の集合体にして組合前橋地方本部福島営林署分会がその一員たる福島県労働者学習協議会(以下学習協議会という。)福島支部全林野班代表者として、組合における学習活動の中心となり、分会教宣部発行の日刊紙の担当責任者であるとともにその間昭和三九年一〇月から学習協議会福島支部常任理事となり昭和四一年二月から同協議会福島支部事務局長としして現在に至り、

(2)  債権者塚原は昭和三八年二月組合全林野前橋地方本部白河営林署分会青年婦人部書記長、昭和四一年四月から六月まで同分会執行委員、昭和四一年七月から現在まで同分会青年婦人部書記長兼組合前橋地方本部中通りブロツク青年婦人部常任委員に任ずる他方昭和四〇年から四一年五月まで組合前橋地方本部白河営林署分会がサークルの一員となつている白河勤労音楽協議会(以下音楽協議会という。)の企画部委員・事業部副部長・運営委員・事務局長を歴任し、組合の文化活動に従事してきたもの

(3)  債権者近藤は昭和四〇年三月組合前橋地方本部白河営林署分会青年婦人部副部長、昭和四一年七月同分会青年婦人部長に任じて現在に至り、他方昭和四〇年四月から現在まで白河勤労者音楽協議会における組合のサークル代表者であるとともに、同音楽協議会の企画部副部長として組合の文化活動に従事してきたものであるが、右組合青年婦人部、学習協議会、音楽協議会は、組合活動の中核的存在であり、また、組合組織の強化建設維持、文化活動にとつて不可欠の存在である。すなわち、

(イ) 労働組合にとつて一般にその青年婦人部が組合活動の中心であることは周知の事実であるがとりわけ、全林野労働組合にあつては青年婦人部が中核的存在であり、債権者江口の所属する組合福島分会においては、組合員総数二八四名のうち、青年婦人部員は八二名を占め、債権者塚原・近藤の所属する組合白河分会においては組合員総数一六三名のうち、青年婦人部員八七名を占める。

(ロ) 学習協議会は労働組合員の意識を高め、自覚にもとづく規律によつて労働組合の組織を強化し、民主的組織としての労働組合を建設維持するため不可欠の組織であり、組合においても組合活動の重要な一環としてこれを組織し運営している。

(ハ) 音楽協議会は地方都市における労働組合にとつて重要な文化活動であり、組合員の文化的要求の充足、文化水準の維持の向上のため不可欠の組織である。

従つて、債権者らを配置換することは組合組織の基盤をゆるがし、組合員が組合を運営することを人事移動に藉口して支配し、介入することとなるものである。しかも、債権者江口と同居しているその両親は病弱であり、同じく同居している弟は未だ中学校三学年に在学中であり、東京へ就職したばかりの弟(当一九年)の収入は全く債権者江口の家計に入らないため長男である債権者江口が一家の支柱で、同人には現在結婚の予定もあり現在地を離れ遠く群馬県内である前橋管内の山深い僻地への配置換は一家の家族生活にとつて耐え難い打撃を与えるし、債権者江口は、昭和三五年福島営林署に現地採用されて以来今日まで同営林署に勤務しているものであり、また債権者塚原は、現在地を離れることができない家庭事情のため、高等学校卒業後白河営林署に採用されたものであり、本件配置換により現任地を離れると同人を小学校三学年以来成人に達するまで養育してくれた病弱の伯母の身辺の面倒をみることができなくなるばかりでなく、同人には結婚の予定もあるので、本件配置換は債権者塚原の一家にとつて、家族生活経済生活両面にわたり堪え難い打撃を与えるのである。

(三)  本件配置換については、次の事実により債務者に不当労働行為意思の存することが明白である。すなわち、

(1)  債務者は次のとおり組合の特定部門の役員に対し集中して毎年配置換をくりかえしている。

(組合福島営林署分会関係)

(イ) 昭和三九年四月一日付をもつて組合福島分会執行委員であつた福島営林課勤務の農林技官渡辺正秋を富岡営林署経営課に配置換

(ロ) 昭和四〇年四月一日付をもつて、組合福島分会青年婦人部事務局長であつた福島営林署経理課勤務の農林技官林昌男を群馬県大間々営林署経理課に配置換

(ハ) 右同日付をもつて、組合福島分会執行委員であつた福島営林署経営課勤務の農林技官田中志征を群馬県沼田営林署に配置換

(ニ) 右同目付をもつて、組合福島分会青年婦人部長であつた福島営林署経営課勤務の農林技官照山茂を福島営林署水保担当区事務所に配置換

(ホ) 昭和四二年四月一日付をもつて、組合福島分会青年婦人部事務局長であつた福島営林署経営課勤務の農林技官今野幸広を福島営林署二本松担当区事務所に配置換

(白河営林署分会関係)

(イ) 昭和三七年四月一日付をもつて、組合白河分会青年婦人部長であつた白河営林署事業課販売係勤務の農林技官神永保を白河営林署牧本担当区事務所に配置換

(ロ) 昭和三九年四月一日付をもつて、組合白河分会青年婦人部長であつた白河営林署経営課経営係勤務の農林技官山辺純雄を長野営林局上田営林署に配置換

(ハ) 昭和四〇年四月一日付をもつて組合白河分会青年婦人部書記長であつた白河営林署経営課造林係勤務農林技官永井喜久次を沼田営林署追貝担当区事務所に配置換

(2)  本件配置換の手続が異常である。

職員の配置換は毎年職員調書に転勤希望の有無を記載させるとともに、組合と債権者間に具体的な配置換に際しては、あらためて本人の事情と希望を確かめる取決めがなされているのに本件配置換に際しては、債務者は債権者らに事情を聴くことも、意思を確認することもせず全く一方的に配置換をした。

(3)  配置換が組合の学習運動を壊滅する手段として使われていることを債務者自ら認めているのであつて、このことは、昭和四〇年中に開催された第一一回定例営林署長会議において、「組合の学習運動は地本の指導下に最近活発になつている。-中略--日常のP・Rと共に人事移動等により防止しているが僕滅できない状態にある。よろしく局の指導を御願したい。」との討議議題が提出されていることからみても明らかである。

三、(保全の必要)。

(一)  債務者は本件配置換に関する団体交渉において、債権者らが昭和四二年四月一日までに赴任しなければ懲戒処分もありうる旨言明している。

(二)  債権者らが役員をしている組合青年婦人部の大会は昭和四二年五月に開催され新役員が選任されることとなつているが、前記のとおり債務者は組合青年婦人部役員に対し集中的に配置換をしてその組織の破壊を企図している時点において、右大会は特に重要な意義を有するのであるが債権者らは右大会の準備、運営に不可欠の存在であるし、右大会において債権者ら以外の組合員が新役員に選任された場合には、債権者ら事務引継の必要がある。

(三)  仮りに債権者らが本案判決があるまで暫定的に本件配置換命令に従うとしても、前記のとおり債権者らは本件配置換に際し、あらかじめ、事情を聴かれたわけでなく全く希望しない任地へ転勤することとなるから、赴任期間一〇日をもつてしては家庭生活を整理する余裕がない。

しかも、本件配置換命令発令後四月六日までの団体交渉において、債務者は組合に対し、債権者らの希望があれば組合青年婦人部大会において新役員が改選されるまで、赴任を延期してもよいと言明していたにもかかわらず、その後の団体交渉において突然態度を翻し、四月一〇日までに赴任しなければ懲戒処分もありうる旨言明するに至つた。

そのため、債権者らの赴任準備期間は実質的に四月八日、九日の僅か二日間を残すのみとなり、四月一〇までの赴任は事実上不可能となつた。

(四)  債権者らは債務者から懲戒処分をうけることを防ぐため、止むなく単身身廻品を持つてそれぞれ任地に赴いたけれどもこれはあくまで懲戒処分を避けるための暫定的なもので、家庭生活の整理、組合活動の整理も全くせず、旅仕度に類する程度の準備で赴任しているので、この状態を長く続けることは不可能であり、現在帰郷して懲戒処分をうけるか、家庭生活を破壊し、組合活動の自由を放棄するか二者択一を迫られている。

以上の次第で、債権者らは本案判決に至るまでの間懲戒処分を防止し、家庭生活の破壊、組合活動の自由の剥奪等の状態を防ぐ緊急の必要がある。

第三債務者の主張に対する反論

(一)  債務者は本件配置換は行政処分であるから、本件仮処分申請は不適法であると主張するが、債権者らと債務者との勤務関係は公法でなく、私法関係であつて本件は民事訴訟法上の仮処分の対象となる法律関係である。すなわち、

債権者ら林野庁職員については、公共企業体等労働関係法(以上公労法という。)が適用され(同法第二・三条)、国家公務員法の規定の一部は適用されない。(公労法第四〇条)

公共企業体等の職員の労働組合は、団体交渉権・労働協約締結

権があり(公労法第八条)労働協約は個々の労働契約の内容を変更する効力を有する(労働組合法第一六条)ものであるから、右職員と任用権者間の労働関係は、対等当事者間の合意の支配する私的自治の分野であり、一般公務員のように、その身分が国法上の分限によつて定められているものとは性質を異にするばかりでなく、公共企業体等の実態をみても、その企業体は、私人が同種の経済活動を行つているのと本質的に同一のものであり、債権者らが所属する労働組合と林野庁には公労法第八条第四号に関する協定は現に存しないけれども、これは債務者側において協約締結を不当に拒否しているためであり、転勤については昭和三五年ころまでは、組合地方本部と対応営林局との間の形態において存し、昇職、転職については、「任官に関する覚書」、「賃金及び雇用配転その他の労働条件に関する仲裁申請事案の処理に関するメモ」、「事業縮少並びに事業所閉鎖に伴う職員の解雇及び配置換等の事業通知に関する協約」等が存し、私企業となんら異なるところはない。

したがつて、公共企業体等とその職員の関係は、権力服従といさう公法上の関係ではなく、私法によつて規律される分野にあるものというべきである。

(二)  そもそも公法分野と私法分野との区別については、学説多岐に分かれ、必ずしも明確ではないが、少なくとも関係主体が国その他の公法人であるか否かがその区別のメルクマールとなるものではなくこれら公法人もまた私法分野における主体として行為することがあり得るのである。

そこで人の使用されている関係が私法関係であるか公法関係であるかは、使用者が私人であるか国家ないし公共団体等の公法人であるかによつて決せられるべきものではなく、その関係が慣習法上ないし実定法上いかに規律されているかによつて決せられるべきである。

もつとも歴史的には国家が本来の統治権の作用、すなわち権力作用を営む場合その任に当る個人の人権を犠牲にしても権力作用の秩序を維持する必要があるとの理由から、上下服従の特別権力関係を内容とする慣習法や実定法が生れて来たけれども、国家が本来の統治権の作用を離れ、事業活動を営む場合にまでなおその従業員を法律上特別権力関係に立たせることは決してその本質的必然にもとづくものではない。(東京地方裁判所昭和二四年八月八日判決労働関係民事々件裁判例集七号八六頁参照)

(三)  そこでまず、学説を通覧するに、

(1)  正田彬著官公労法二〇頁によれば、「官公庁の建物を作つたり、官公庁が器物を買入れたりする時は、やはり官公庁は一応対等な立場で商人と取引する。ところが官公庁が労働者を買入れる時だけは任命とか任用とかいつて一方的な行為であつて、売り手は承諾するだけ--それも承諾しなかつたら失業だから事実上は強制ということになる--というような考え方がそもそもおかしいのではないだろうか。やはり官公庁の労働関係も労使関係は契約関係だという原則すなわち労働力の売買取引だという原則にしたがつて、考えられることが必要であろう。」というのであり、

(2)  労働法一一号一六七頁林氏論稿「公労法上の団結権団体交渉権について」によれば、「郵政林野等の五現業の政府機関でも同様であつて、経済的な活動を行うにとどまりその事業の性格が公共的なものとは認められないからその労働関係についてもたかだか強化された私法関係のものと解される。」というのであり、

(3)  松岡三郎・大野正雄・内藤功共者条解公労法・地公労法三八八頁~三九〇頁)によれば「公労法は争議権の制限をしているが、労組法・労調法と同じく労使対等の原則、私的自治の原則によつて貫らぬかれているのであつて、その間これを公法的権力関係とみる何らの規定もない」とされている。

右論稿部分は、公共企業体の従業員の労働関係が私法関係であることを強調する論調となつており、その公労法の対等原則、私的自治を根拠とする理論を貫らぬけば公労法の適用をうける現業公務員もまた公共企業体の従業員と同じ結論に達する筋合である。

また、地方公営企業労働関係法適用下の地方公務員に関する昭和四〇年一二月二七日東京地方裁判所判決をめぐり労働法律旬報社が実施した各学者に対するアンケートは、回答者一一名中一〇名までが右公務員の労働関係は私法関係と解すべきである旨回答しており<証拠省略>、明治大学教授松岡三郎氏も同旨の見解である<証拠省略>。

なお地方公務員法で「免職」と規定している(同法第二八条、第二九条等)に対し地方公営企業労働関係法で争議行為違反に対して「解雇」と規定している(同法第一二条)点を指摘している学者があるが、このことは国家公務員の場合も全く同じ現象がみられるのであつて、一般の国家公務員の場合は「免職」と規定している(国家公務員法第七五条、第七八条、第八二条等)に対し、公労法適用下の国家公務員が争議行為をした場合については同法第一八条で「解雇」と規定している(国家公務員法第一八条)のである。

(四)  次に我が国裁判例をみるに、次に挙げるものはいずれも、労使対等原理、私的自治の原理に立つて立論している。

(1)  国鉄職員に関するものとして、東京地方裁判所昭和三八年一一月二九日判決(判例時報三六四号一四頁)

(2)  専売職員に関するものとして、広島地方裁判所昭和三八年五月七日判決(別冊労働法律旬報四九〇号一四頁)

(3)  公立学校教諭の退職処分の無効を前提とする公法上の給与支払請求を本案とする仮処分を認めたものとして、松山地方裁判所昭和三四年一一月二〇判決(判例タイムズ九九号一〇〇頁)

(4)  国鉄職員に関するものとして

(イ) 東京地方裁判所昭和二四年八月八日判決

(労働関係民事々件裁判例集七号八六頁)

(ロ) 東京地方裁判所昭和二四年一〇月一〇日決定

(労働関係民事々件裁判例集七号一〇九頁)

(ハ) 福岡地方裁判所昭和二五年三月一七日決定

(労働関係民事々件判例集七号一二二頁)

(ニ) 東京地方裁判所昭和二五年二月二五日判決

(労働関係民事々件裁判例集七号一六〇頁)

(ホ) 大阪地方裁判所和和二五年五月一一日判決

(労働関係民事々件裁判例集七号一四一頁)大阪高等裁判所同年八月一二日判決(労働関係民事判例集一巻五号九三二頁)

(ヘ) 大阪地方裁判所昭和二六年一〇月一〇日判決

(労働関係民事判例集二巻四号五一八頁)大阪高等藩判所昭和二八年一月一三日判決(労働関係民事判例集四巻一号四〇頁)

ことに、前記アンケートの対象となつた東京地方裁判所昭和四〇年一二月二七日判決は、「地方公営企業の職員の勤務関係は私法的規律に服する契約関係とみるのが相当であり、本件解雇が行政処分であるとすることはできない。」と判示しているのであつて地方公営企業体労働関係法適用下の地方公務員と公労法適用下の国家公務員とは、地方公務員法、国家公務員法の関係において、理論上および実定法体系上全く相照応するものであり、右東京地方裁判所判決の論理は、そのまま本件にあてはまるものである。

(五)  立法経過の概観

(1)  昭和二二年の国家公務員法制定により、従前官吏の勤務について認められていた無定量の勤務の観念は否定され、公務員の勤務関係は契約関係とみるのが適当とされるようになつた。

そして公務員にも団体交渉権、協約締結権が認められ、当時現業公務員は特別職とされていた。

ところが昭和二三年の法改正により一般職に移され団体協約の締結が禁止されるに至り、一方国鉄、専売事業は公職から除外し公共企業体労働関係法の適用をうけることとなつた。

その後昭和二七年八月一日公共企業体等労働関係法として改正施行され、いわゆる五現業もまた、この法律の適用をうけることとなり、再び団体交渉権、協約締結権を取得した。

右法改正(労働関係調整法等の一部を改正する法律案)の提案理由中で政府は「公務員のうちでも郵政その他の現業公務員につきましてはその業務の性格、実態が一般行政事務とは著るしく相違し、むしろ国鉄等の公共企業体に近い点もありますので云々」と説明しているのである。

昭和二九年には五現業公務員につき給与に関する国家公務員法の規定の適用除外を認めた「国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法(昭和二九年法律一四一号)」の制定により国家公務員法第一八条、第二八条、第二九条ないし第三二条、第六二条ないし第七〇条、第七五条二項、第一〇六条、一職職の職員の給与に関する法律、国家公務員の職階制に関する法律(昭和二五年法律一八〇号)の規定は除外されるに至つている。

(2)  右の立法経過からも明らかなように、五現業公務員は全くぬえ的な立場に立たされており、ここから幾多の混乱が生じている。

その顕著な例は公労法第一七条違反による同法第一八条の解雇の問題である。

公労法第一八条の解雇は同法第一七条違反を理由として労働契約を解除するいわば通常の解雇であり懲戒解雇ではないといわれる。

ところが国家公務員法第八二条による懲戒処分としての解雇もまたなし得るとして五現業庁は公労法第一七条違反に国家公務員法における懲戒処分をもつて対処しようとする。

従つて、この点についてはあたかも公労法第一八条と国家公務員法第八二条が選択的に適用し得るような不合理な結果を生じている。

このような混乱はいわゆるILOのドライヤー報告の表現を借りれば日本においては「政府としての政府」と「使用者としての政府」とを区別しないところから生ずるものであり国際的批判を受けざるを得ない。

(六)  ひるがえつて公労法における五現業職員と使用者との関係を規律する実定法が特別権力関係的なものであるかどうかを検討してみるに、

(イ)  公労法第八条の労働協約締結権の規定は、明らかに労使対等当事者自治の原則に立つている。

(ロ)  不当労働行為救済等について、労働組合法上の労働委員会に対応する公共企業体等労働委員会が設置され、人事院に提訴することができない。

苦情処理についても右と同様である。

(ハ)  右公共企業体等労働委員会がした処分について行政不服審査法による不服申立が許されない。(公労法第二五条の七)

(ニ)  とりわけ本件にとつて重要なことは五現業公務員に対する処分であつて労働組合法第七条各号に該当するものは、行政不服審査法による不服申立が許されないことである。(公労法第四〇条第四項)

右条項の解釈はいろいろ考えられるけれども、少なくとも不当労働行為に該当する処分に関する限り、当事者対等私的自治の原則に立つ公労法により処理することを規定したものであることは疑問の余地がない。

(ホ)  その他給与に関して前記国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法により、一般職公務員に関する諸法規規定が排除されている。

(ヘ)  労働基準法は、非現業公務員に対しては準用されるにとどまる(国家公務員法附則第一六条改正附則昭和二三年一二月三日法第二二二号第三条)けれども、債権者ら林野庁に所属するいわゆる現業公務員には、労働基準法は全面的に適用されている。(公労法第四〇条第一項により国家公務員には労働基準法適用除外を定めた前記国家公務員法附則第一六条、準用を定めた改正附則第三条がいずれも適用を排除されている。)

したがつて、債権者らの労働関係については労働基準法により就業の場所・従事すべき業務等をはじめ、賃金・労働時間、その他の労働条件を明示して労働契約を締結すべきことが定められているのである。(同法第二条、第一三条、第一五条、施行規則第五条)

このことは、国家公務員法中債権者ら公労法適用者についてはその労働条件は労使対等で決すべきこととし(労働基準法第二条第一項)、団体交渉による私的自治に委ねているものであり、その関係が私法的労働関係が私法的労働関係であることを明らかにしたものとみるべきである。

(七)  以上の次第で、公労法の適用される五現業公務員の労働関係は実定法上からも、労働関係の実質上からも私的自治の支配する分野であつて、本件配置換命令は行政処分の執行停止によるべきでなく仮処分に親しむ法律関係と解すべきである。

第四訴訟要件に関する答弁

一  本件仮処分申請は不適法であるから却下さるべきである。

債権者らが挙げる本件配置換命令は、行政事件訴訟法第四条にいう「行政庁の処分」に当り、民事訴訟法上の仮処分により、その効力の停止を求めることは許されない。

債権者ら林野庁職員の勤務関係は、実定法上公法関係として規制されているので、同じく公労法の適用をうけるとはいえ、三公社の職員の勤務関係とはその実体も、実定法の定めも本質的な差違がある。すなわち、

林野庁とその職員間の法律関係を考える場合、同じく公労法の適用をうける三公社が独立の企業体として制度化され、その企業の公益的、社会的および独占的性格から、特に公社として私企業との中間に位置せしめられているのとは異り、五現業においては公労法の適用をうけるとはいえ、国家機関が直接その業務を行うものとして林野庁等の行政機関を設けて国家自らその業務を執行し、その職員は国家公務員であるので、この差異は無視されるべきではなく、次に述べるとおり、林野庁職員と三公社職員との勤務関係には本質的な差異が認められ、実定法は、林野庁職員を含む五現業公務員の勤務関係を公法関係とし、勤務関係における配置換命令を行政処分と規律している。以下項を分けて詳述する。

二、公労法や国家公務員法上、林野庁職員の勤務関係が具体的にどのようなものであるかは、立法政策上どのように規律されているかによるのであるから、これを詳細に検討することなく、その勤務関係を直ちに私法関係であるとすることは、林野庁職員の勤務関係についての実定法の定めを無視するものであつて正当でない。

周知のとおり、一般公務員についての任免、分限、服務および懲戒等の勤務関係は、すべて法律および人事院規則によつて規律されており、任命された特定個人として公務員は、このような法関係の下に立たしめられるものであり、またこのような公務員に対する任免、分限、服務および懲戒等に関する行政庁の行為が国の行政機関として有する行政権の行使であり、行政処分であることは、現在多くの判例および学説の認めるところであつて異論をみない。

ところで公労法第四〇条は、林野庁職員を含む五現業関係の職員について、国家公務員法の規定のうち、一定範囲のものを適用除外しているが、一般職公務員であるこれら職員の勤務関係の基本をなす任免、分限、懲戒、保障および服務の関係については、極く限られた一部の規定がその適用を除外されているだけで、国家公務員法第三章第三節の試験および任免に関する規定(第三三条~第六一条)、第六節の分限、懲戒および保障に関する規定(第七四条~第九五条)、第七節の服務に関する規定(第九六~第一〇五条)の殆んどは、一般公務員の場合と同根に林野庁職員にも適用され、またこれらの規定にもとづく「職員の任免」に関する人事院規則八-一二、「職員の身分保障」に関する人事院規則一一-四、「職員の懲戒」に関する人事院規則一二-〇、「不利益処分についての不服申立て」に関する人事院規則一三-一、「営利企業への就職」に関する人事院規則一四-四、「政治的行為」に関する人事院規則一四-七、「営利企業の役員等との兼業」に関する人事院規則一四-八等も同様に適用されているのである。もつとも、林野庁職員については、公労法第八条が一定の団体交渉の範囲を法定し、その限度において当時者自治の支配を認めているが、そのことから直ちに林野庁職員の勤務関係の法的性格を一般的に確定しうるものではなく、右のような国家公務員法および人事院規則の詳細な規定が、右勤務関係の実体をどうようにとらえて法的規制をしているかが検討されなければならないのである。しかして、右規律をうける林野庁職員の勤務関係は、公労法第四〇条によつて適用除外されているものを除き、一般公務員と同様の公法的規制をうけた勤務関係というほかはないのである。

三、林野庁職員の勤務関係が公法上の勤務関係であることは、一般に私法関係であるとされている三公社の職員の勤務関係と対比することにより、更に明らかとなる。

以下便宜国鉄の例をとり、両者を対比してみる。

(一)  国鉄は国家行政組織法に定める国の行政機関ではなく、したがつてその職員も国家公務員ではない。これに対し林野庁は言うまでもなく、右組織法に定める国の行政機関であり、その職員は一般職に属する国家公務員である。

(二)  国鉄職員に対しては日本国有鉄道法(以下国鉄法という。)第三四条第二項により、国家公務員法の適用が全面的に排除されているが、林野庁の職員に対しては前述のとおり公労法第四〇条により、一定範囲で国家公務員法の規定の適用が排除されているのみで一般的には同法が適用されている。

(三)  任免について国鉄職員の場会には国鉄法第二七条において、その基準の大編を示すにとどめ、その具体的規律については国鉄の定めるところに一任しているのに、林野庁職員の場合には、前記のとおり国家公務員法第三章第三節および人事院規則八-一二によつて、職員の採用、試験、任用手続等がきわめて詳細かつ具体的に規定されており、林野庁に一任されている部分はきわめて少ない。

(四)  降職および免職事由についてみると、林野庁職員の場合には、国家公務員法第七八条第四号において「官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」と規定されているのに対し、国鉄職員の場合には国鉄法第二九条第四号において「業務量の減少その他経営上やむを得ない事由が生じた場合」と、ことさら私企業的色彩の強い降職および免職事由が定められている。

(五)  懲戒事由についてみると、林野庁職員の場合には、国家公務員法第八二条第三号に「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」と定められ、林野庁職員の公務員たる性格を明らかにしているのに対し、国鉄職員の場合には懲戒事由を規定した第三一条第一項にかかる規定を欠いているし、その他の点でも国鉄法にはその職員を「国民全体の奉仕者」であるとは規定していない。

(六)  一般服務関係については、国鉄職員の場合には国鉄法第三二条が職員は法令および業務規程に従い全力をあげて職務の遂行に専念すべき旨を定めるにとどまるのに対し、林野庁職員の場合には国家公務員法第九六条において「すべて職員は国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務する。」ものであるとの根本基準を明らかにしているほか、上司の命令に対する服従、信用の保持、秘密の厳守、職務への専念、政治的行為の制限、私企業からの隔離、他の業務への関与制限等(国家公務員法第九八条ないし第一〇四条)国家公務員として特殊な勤務関係に応ずるものと解される詳細な規定が設けられている。

右債務者の見解については裁判例として参照すべきものに次のものがある。

(一)  東京地方裁判所昭和三〇年七月一九日判決

(行政事件裁判例集第六巻第七号一八二一頁)

(二)  東京地方裁判所昭和三八年一一月二九日判決

(判例時報第三六四号一四頁)

以上のように債権者らが全く同質的なものであると主張する三公社職員の勤務関係と、林野庁職員の勤務関係との間には、実定法規の上で本質的な差異が認められるのである。

しかして、債権者らに対する本件配置換命令は、すでに述べたとおり国家公務員法第三五条、人事院規則八-一二(職員の任免)第六条にもとづいて行われる公権力による一方的行為であるからいわゆる処分性を有し行政処分としての性格を有するといわなければならない。(公労法第八条第二号は各種の人事事項に関して当事者自治による決定を認めているがこれはあくまでも所定の人事権行使に関する基準について団体交渉等を認めたものであつて、その基準を適用して具体的、個別的に行われる人事権の行使が一方的行為であることに消長をきたすものではない。)

四、(一) 債権者らは、林野庁職員に労働基準法が適用され、同法施行規則第五条に就業の場所に関する事項等を労働条件として明示することを規定していることを挙げ、林野庁職員は私法的労働契約関係にあると主張するが、同条の規定は労働条件に関する事項(基準的事項)について、使用者にその内容の明示義務を課したものであつて、このことと個別的、具体的措置がいわゆる共同決定事項であるかどうかとは別個の問題である。

ところで任命権者ないし使用者が、個別的具体的人事を決定する最終的権利を保有することは、公務員関係であると私企業における労働関係であるとを問わず一般に是認されているところである(労使関係法運用の実情及び問題点、労働関係法研究会報告書第二分冊一一四頁)。

これについてみると、国家公務員として任用された以上は、任免、分限、服務および懲戒等の勤務関係の具体的内容は国家公務員法によつて任命権者が一方的に行いうるのであつて、個々に職員の同意を要しないものであり、また配置換命令についていえば、任命権者が国家公務員法第三五条の欠員補充の方法として、その権限の範囲内で職員をいかなる官職に任命するかは自由裁量であつて、それは任命によつて勤務官署が異ると否とを問わず、任用関係の本質および内容からいつて改めて個々的に同意を要しないのである。そしてこのことは、例えば労働基準法施行規則第五条第一〇号の休職に関する事項が明示事項とされているが、具体的な適用に当つては、国家公務員法第七九条により職員の同意をうることなく本人のに意反しても任命権者はこれを行いうることからみても明らかである。

それゆえ、就業場所に関する事項が労働基準法にいう労働条件明示事項であつたとしても、林野庁職員の個別的、具体的な配置換命令は、職員と任命権者との間の合意によつて定めるのでなく、国家公務員法の適用によつて任命権者の権限によつて行われるものである。したがつてこのような行為は、同意をうるための労働契約上の労働条件の変更を求める私法上の意思表示ではなく、公権力による一方的行為であり、行政処分といわなければならない。

(二) なお債権者らのあげる地方公営企業職員の解雇に関する裁判例は本件事業に適切でない。すなわち地方公営企業職員と公労法の適用される五現業職員との間には、その性質に関し法律上明確な差異がある。

その一例をあげれば、地方公営企業職員については、政治的行為の制限もなく(地方公営企業法第三九条第二項による地方公務員法第三六条の適用除外)また、行政不服審査法の適用もない(地方公営企業第三九条第一項による地方公務員法第四九条および行政不服審査法の適用除外)。

したがつて、地方公務員法による処分に対して人事委員会または公平委員会に対する不服の申立をすることができず、これらに対する審査請求は一般私企業と同様に裁判所あるいは労働委員会へすることが許されるにすぎない。これに対し五現業職員については、すでに述べたように政治的行為の制限(国家公務員法第一〇二条)があり、また不服申立に関する規定(同法第九〇条ないし第九二条の二)もものまま適用され、不利益処分としての審査請求は国家公務員法所定の要件を備え、公労法第四〇条所定の範囲内で人事院に対し申立てることができるのである。このことは五現業職員の勤務関係が公法関係であり、これにもとづいてなされる任命権者の措置が行政処分であることと切離して考えることはできないのである。

五、以上の次第で、本件配置換命令は行政庁の処分にあたり、民事訴訟法による仮処分をすることは許されないから債権者らの本件仮処分申請は不適法として却下さるべきものである。

第五、申請の理由に対する答弁

一、申請の理由一、の事実は認める。および二、の事実中(一)の事実は認める。二、(二)の事実中債権者江口・塚原が組合分会執行委員であつた事実、組合青年婦人部が債権者ら主張のとおりの役割を果すべきものとされていること、債権者江口が債権者ら主張のとおり採用され勤務していたこと、債権者塚原の学歴および勤務歴は認めるが、債務者が債権者らの組合活動を嫌悪して不利益な人事移動を行い支配介入したこと、および債権者らに転任できない事情の存在することは否認する。その余の事実は知らない。

申請の理由(三)・(1) の事実中、農林技官林昌男・田中志征・今野広幸・神永保・山辺純雄・永井喜久次がそれぞれ主張のとおり配置換えになつたこと、農林技官照山茂が債権者ら主張の事務所に配置換えになつたこと、は認めるが、右田中が当時執行委員であつたこと、および右照山の配置換えになつた日は否認する。その余の事実は知らない。右照山が配置換えになつた日は昭和四〇年三月二五日である。

申請の理由(三)・(2) の事実中、配置換を行うに際し、昭和三六年以降ほぼ隔年職員調書をとり、これに転勤希望の有無を記載させていることは認めるが、その余の事実は否認する。

同(3) の事実中、債権者ら主張の会議において、主張のような討議事項が提出されたことは認めるがその余の事実は否認する。右討議事項は一署長が提出したものにすぎず、当該会議においてもその後の会議においても全く討議の対象とはされなかつた。討議事項については、署長側から提出された討議事項は、そのまま会議資料にのせこれを配付する方針であるために討議事項として登載され配付したまでのことである。しかも、右討議事項には債権者ら主張のような事項が含まれていたにも拘らず、これを秘密文書として取扱うことさえしなかつたことは、債務者としてこれを全く歯牙にかけず、まともに問題としようとする意思のなかつたことを裏付けるものである。また、実際においても、その後の配置換において、学習運動が考慮された事実は全くないのみならず、すでに二年以前の出来事で本件とはなんらの関連もない。

申請の理由三、(一)・(二)の事実中、総務部長会見および署長会見の席上において債権者ら主張のような発言があつた事実は認める。債権者ら主張の大会の準備運営に債権者らが不可欠の存在であること、および事務引継ができないことは否認する。その余の事実は知らない。

同(三)・(四)の事実中、債務者が債権者らの希望があれば組合青年婦人部大会において新役員が改選されるまで赴任を延期してもよいと言明したこと、および本件配置換命令が債権者らの家庭生活を破壊するものであることは否認する。その余の主張は争う。

二  本件仮処分申請は必要性を欠き、却下を免がれない。

すなわち、債権者近藤・塚原は昭和四二年四月一七日、債権者江口は同月一九日それぞれ新任地に赴任し業務についている。

従つて、本件は本案訴訟において争えば足りるのですでに仮処分の必要性は消滅している。

債権者らは、新任地への赴任が臨時的なものであることを保全の必要性の要素であるかのように主張するが、保全の必要性は、本件配置換命令の効果として形成された権利関係によつて結果的に生ずる不利益、すなわち、著しき損害等が生ずる場合に認められるもので赴任の異状性は仮処分の必要性の要素とはなり得ない。

また、債権者らは、本件配置換命令の結果組合活動の自由が阻害される旨主張するが、組合活動は新任地においても行いうるものであるし、債権者らが主張する前任地における組合活動に関する整理等の残務は、もともと債権者らとは別人格の組合前橋地方本部福島営林署分会および白河営林署分会に関する事情であつて、債権者らについての仮処分の必要性を判断するための要素とはなり得ない。

仮りに右残務整理に関する主張が、債権者らについての仮処分の必要性に関するものとして可能であるとしても、本来組合活動は勤務時間外に行わるべきものであり、とりわけ残務ということであれば限られた業務であるから、新任地においても時間外に処理することは可能である。しかも組合の執行機関は数名の執行委員をもつて構成されその業務も特殊専門的業務でなく、共通性を有するものであるから、執行委員一名が欠けたため余人をもつて代え難い業務が残存することは考えられない。よつて他の執行委員に残務を引継ぐことは任期中途で異動した場合通常行われていることであり、本件のみそれが不可能であるとする理由は見当らない。

右の理は組合青年婦人部の役員についても、また妥当するところである。加えて以上によるもなお債権者らが組合残務を処理しなければならないという特殊事情があるとしても、必要最少限の日時について業務上支障のない範囲で新任所属長の許可をうけて休暇によりその事務を整理することも可能であるから右主張もまた主張自体失当である。

第六、疎明関係<省略>

理由

(一)  行政庁の処分その他公権力の行使に当る行為について民事訴訟法による仮処分をすることができないことは行政事件訴訟法第四四条により明らかである。

ところで、債権者らはいずれも農林省林野庁所属の農林技官として、債権者江口は林野庁前橋営林局福島営林署に、債権者塚原近藤は同営林局白河営林署にそれぞれ勤務していたところ、債務者(林野庁前橋営林局長森博)は、昭和四二年四月一日付をもつて、債権者江口を前橋営林局事業部土木課根利林道事業所に、債権者塚原を浪江営林署事業課椚平製品事業所に、債権者近藤を沼田営林署経営課に、それぞれ配置換する旨発令し、同月四日債権らに対しその旨の辞令をそれぞれ交付したことは当事者間に争がない。

(二)  右配置換命令が「行政庁の処分その他の公権力の行使」に当るかどうかを検討するに、債権者らが指摘するように、国有林野事業に勤務する一般職に属する公務員は、該事業の性質からいえば一般の私企業と区別する合理的な理由もなく、現に昭和二三年法律第二二二号による国家公務員法の改正以前においては、右現業公務員勤務関係については、いわゆる労働三法が適用されていたのである。ところが、右国家公務員法の改正により国有林野事業に勤務する一般職に属する国家公務員を含むいわゆる五現業公務員には原則として国家公務員が適用されることになり、新たな問題を生ずるに至つた。

以上のように私法自治に委せていた分野に異質の国家公務員法の適用あるものとした立法政策上の問題はともあれ、ある勤務関係について、いかなる法律上の保護を受け得るかは実定法上の問題であり、実定法によりこれを決しなければならない。

そこで、いわゆる五現業公務員に適用される国家公務員法の規定(公労法第四〇条をもつて適用を除外するものを除く)をみるに、五現業公務員は、一般公務員と同様、その任用については、国家公務員法および人事院規則(八-一二)の定めるところにより、その者の受験成績・勤務成績等能力の実証にもとづいてなされ、その免職については法律にもとづき行われ(第三三条)、その昇任については、競争試験によるを原則とし、人事院が官職の職務および責任に鑑み、適当でないと認める場合に従前の勤務実績にもとづく選考によりこれを行うこととし(第三七条)、その身分については、法律または人事院規則の定める事由によるのでなければ、その意に反して降任・休職・免職されないものとされ(第七五条第一項)、その懲戒については、国家公務員法・人事院規則に違反した場合や、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合が挙げられ(第八二条)、その服務については、法令に従い、かつ、上司の命令に忠実に従わなければならず(第九八条第一項)、その官職の信用を傷つけ、官職全体の不名誉となる行為を禁止され(第九九条)、職務上の秘密を守り、職務に専念する業務を負わされ(第一〇〇条第一項ないし第三項、第一〇一条第一項)、政治的行為の制限を受け(第一〇二条)、営利を目的とする私企業に参加することを禁止される(第一〇三条)のである。

(三)  以上の諸規定は、国家と国家公務員間の権利義務を規定したものであり、その権利義務が公法上のものであることは多言を要しない。

したがつて、公労法(昭和二七年法律第二八八号をもつて五現業公務員に対し公労法が適用されるようになつた。)第三条は、五現業公務員の労働関係については原則として労働組合法を適用すべき旨規定しているけれども、五現業公務員の採用・昇任・転任・配置換および降任等の人事は、国家公務員法および人事院規則(八-一二)に準拠して行うべく、本件配置換命令は、公権力の行使たる行政処分に当るものといわなければならない。

(四)  債権者らは、日本国有鉄道〇いわゆる三公社の職員や、地方公営企業職員の勤務関係に関する数多の判例を挙げるが、これら職員については、国家公務員法その他の公権力の行使と認められる規定の適用はなく、五現業公務員と同一の勤務関係に立つものではないから、右の判例は本件に適切するものではない。

(五)  以上の次第で、本件配置換は公権力の行使たる行政処分に該当するものであるから、債権者らが本件配置換をもつて不当労働行為に当るものとして、公共企業体労働委員会に対し救済申立をなすは格別、民事訴訟法にもとづき仮処分による救済を求めることは許されないものといわなければならない。

よつて、本件申請は不適法として却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条・九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 羽染徳次 佐藤貞二 中野保昭)

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